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気道緊急 備忘録

緊急疾患の中でも分単位で患者さんの運命が大きく変わるのが気道緊急です。気道さえ再開通できれば救命できる一方、それが出来なければ脳死や死を招くのが気道緊急。

いざという時うまく動けないと大きな後悔が残るシチュエーション、緊急の気道確保について確認したいと思います。

 

気道緊急の覚知

気道緊急は上気道が閉塞するあらゆる事態が原因となります。Aの異常として以下の項目が重要です。

①Killer Sore Throat:急性喉頭蓋炎、扁桃周囲膿瘍、咽後膿瘍、Ludwig’s angina(ルートヴィッヒズアンジャイナ、口腔底蜂窩織炎)

炎症の部位を以下に図示しておきます。

 

 

※Lemierre症候群(レミエール症候群、血栓性頸静脈炎):咽頭炎や歯の炎症が経静脈鞘に波及、化膿性血栓性静脈炎を来たし、敗血症、各種臓器(特に肺)のSeptic emboliが多発する疾患であり、killer sore throatと呼ばれますが、気道緊急の観点からはAの確保より病態の把握や加療の早期開始が重要になる疾患です。

②誤嚥/窒息

③アナフィラキシー:薬剤、食物、蜂毒など

④外傷、気道熱傷

これらの原因により、Aの異常が出現します。完全な気道閉塞があれば呼吸が停止し、意識障害、心停止が出現します。一方、進行性に気道狭窄が悪化する場合、以下のRed flag signに注意し、これらの症状があれば積極的な気道確保を進める必要があります。

くぐもった声(Hot potato voice),嗄声,唾を飲み込めない⇒流涎,Stridor,呼吸困難、SpO2低下,tripod position(三脚位)

※tripod position⇒臥位では呼吸が苦しいため、前傾し,開口状態で下顎を前突させ,頸部を過伸展した姿勢です。

気道確保のアルゴリズム

気道緊急を認めた場合の対処について参考になるのが日本麻酔科学会が2014年に出した気道管理アルゴリズムです。(実際のアルゴリズムはこちら→

基本的に外来の現場ではBVMによる換気が可能であれば多少時間の余裕があるため、しっかりと体制を整えて挿管の準備をすることができます。

重要なのはBVM換気がうまく行えないような超緊急事態であり、緊急の気管切開を含めた対応が必要になります。

実際の気道確保

①頭部後屈顎先挙上または下顎挙上による用手的気道確保:意識障害による舌根沈下であればこの方法だけで気道開通が図れます

声門上器具:喉頭を覆って換気する喉頭マスク(ラリンジアルマスクやi-gelなど)と食道閉鎖式の器具(コンビチューブやラリンジアルチューブなど)があります。どちらも使い慣れていないと挿入の向きから悩むことになりますので、各デバイスの目的と挿入位置を確認しておきます。

ラリンジアルマスク、i-gel:先端部分に換気口があります。喉頭を覆うように器具を挿入し、換気を補助します。

コンビチューブ:実は使ったことも見たこともありませんが、潔いチューブです。盲目的に口から挿入し、カフを膨らませます。チューブが2本ついているため、先端が食道に留置されればもう1本のチューブの側孔から換気を行います。先端が運よく気管に入れば、入ったチューブの先端から換気が可能です。今まで大学病でも見たことはなく・・あまり汎用されている印象はありません。(多用している先生がいらっしゃたらすみません)

挿管:最も頻繁に行われる高度な気道確保の手段です。研修医時代からできるだけチャンスがあれば練習をしておきたいところです。実際には舌の大きさや分泌物の量、開口の程度によってとても難しい場合もあり、できない場合はすぐに慣れた先生に手を変わることが重要でしょう。

 

外科的気道確保:輪状甲状靭帯穿刺,輪状甲状靭帯切開,気管切開

例えば喉頭蓋炎や喉頭浮腫で挿管チューブが物理的に通過できない、顔面外傷でそもそも口腔内からアプローチできない、などの場合は最終手段として外科的気道確保が選択されます。気管切開は基本的に手術室で準備を行った状態で長期に気道管理を要する場合に行なうため、緊急時は輪状甲状間膜穿刺や切開が選択されることになります。

穿刺、切開部位は上記の図、赤丸の部分であり、男性の場合はのどぼとけの尾側部分であり頸部の腫脹や高度肥満がなければ触知は比較的容易です。

外科的な気道確保を要する場合、以前行われていた(らしい)大口径の静脈カテーテルによる輪状甲状間膜穿刺はチューブが細く、抵抗が大きいため、送気が難しく、あまり推奨されていないようです。

輪状甲状間膜切開を行う場合は図の赤丸部分の切開後、気管鉤で気管を把持し気管を開いた状態で6.0~6.5mm程度の細い挿管チューブや細めの気管切開チューブを留置します。

→詳細の手順はこちらのビデオがわかりやすいです!

 

誤嚥・窒息の場合

☞ハイムリック法、胸骨圧迫法、背部叩打法による除去をトライ

医療者は吸引、喉頭鏡+マギール鉗子による異物除去

意識消失の場合は通常のBLSへ移行

 

□最後に

開業医の立場で気道緊急を経験することはほとんどないと予想されますが、一方で病院に比べきわめて限られた装備でアナフィラキシーや誤嚥等Aの異常をきたす患者が来院することは常に想定が必要です。実質的にどこまで対応可能であるかはわかりませんが、一度でもAの異常を見たことがあればその緊急度には恐怖感を覚えます。常に知識のアップデートをしつつ、いざという時に動ける体制を整えておく必要を痛感しています。

 

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